みんな元気。

著者:舞城王太郎 舞城王太郎の「みんな元気。」は、「何かを選ぶ」ということの暴力性をはっきりと描き出す。「何かを選ぶ」ということは「選ばれなかった可能性」を殺すということでもあるのだ。だが、舞城は「それでも何かを選ばないことには前に進めない…

『靖国問題』

著者:高橋哲哉 帯には「哲学で斬る「靖国」」とあるが、どこが「哲学」やねんw 手法としてはむしろ「言説史」的といえるのでは。 以下、本書のまとめに私の意見を付記する。 1・感情の問題 靖国のシステムの本質が、国家が国民の生と死に対し最終的な意味…

『私が語りはじめた彼は』

著者:三浦しをん 激しい感情は書物と同じだ。どれだけ厚くても、いつか終わりがやってくる。僕はもう、激しさをすべて使いきってしまったから、はじまりも終わりもなく続いていくだけなのだ。 (「冷血」より) 「結晶」「残骸」「予言」「水葬」「冷血」「…

「「カッコいい」のある風景─民俗学とその周辺にとっての’80年代─」

いまや「暴力でぶ」という二つ名で知られる大月隆寛であるが、かつては気鋭の民俗学者であった(という言い方は失礼ですね。今でも民俗学者です。「民俗学」なるものが今も存在しているのであれば)。そしてその同時期、大塚英志もまた民俗学的な用語をちりば…

『オウバアキル』

そして先人に倣って自らも「呪われた詩人」になることを夢見る。しかし、差し当たってリセに通う平々凡々たる生徒に過ぎない私は、呪いなどとは全く無縁で、常日頃、救いようのない自分の凡庸さを意識すると同時に、不満を漏らす権利は自分にはないのだとも…

『感じない男』

森岡正博 ちくま新書 2005年2月 「性犯罪を犯さないがロリコンの嗜好を持つ男」*1という今まで語られることの少なかった「ロリコンの中心層」を正面から描いた点で希有な一作である。今までの「ロリコン=性犯罪者」「=大人の女に相手されない男、大人…

『金毘羅』

笙野頼子 集英社 2004年10月 2000円 この小説の末尾には、作者によるこのような断り書きが記されている。 「この小説は異端、或いは反主流の学説を多く根拠にした空想の含まれる作品です。その他の研究所、論文の通りにはなっていませんのでご注意…

『<戦争責任>とは何か―清算されなかったドイツの過去』

4月14日、町村外務大臣は、参院外交防衛委員会で、韓国のノ・ムヒョン大統領が日本とドイツを比べて、日本の歴史認識を批判していることに対し「単純にドイツと比較というのはいかがなものか」と反論した。 外相は「ドイツはユダヤ民族を抹殺するという大…

『ねむり姫』

「ねむり姫」という澁澤龍彦の短篇がある。十四歳の姿のまま眠り続ける「珠名姫」は、盗賊となった腹違いの兄「つむじ丸」にさらわれ山中に捨てられる。その際、両手首を野犬に食い千切られた姫は、寺院に安置されるものの、やがて手に余るようになった僧侶…

『落窪物語』

『落窪物語』とは、通俗小説の偉大なる古典である。 小島政次郎が述べたように、下級の女房の欲望に応える「大衆小説」なのであり、その通俗性のパターンをより過剰な通俗性をもって裏切るところに『落窪物語』の小説としての巧みさはある。 はっきりいって…

『火の記憶 (1) 誕生』

著者名:エドゥアルド・ガレアーノ 飯島みどり・訳 出版社:みすず書房 発行年:2000年 先日は北朝鮮戦が大変盛り上がりましたね。 ということで、スタジアムの神と悪魔―サッカー外伝でもどうでしょうか?そして、その著者であるガレアーノが描くラテンアメ…

『あなたの人生の物語』

著者 :テッド・チャン 朝倉久志・訳 出版社:早川書房 発行年:2003 価格 :987円表題作を含む八編を納めた短編集。 多少難解で読みづらいところはあるものの、いづれもSF的な想像力に満ちた傑作である。 物語的なエンジンは弱く登場人物の魅力にも欠ける…

『闘争領域の拡大』

著者名:ミシェル・ウエルベック 中村佳子・訳 発行者:角川書店 発行年:2004年10月 原著:1994 価格 :1800円<あらすじ> 「僕」は三十歳になったばかりの中堅プログラマー。社会的地位は申し分ないが、恋愛面では魅力に欠け、恋人と別れてから二年間その…

『甘美なる来世へ』

著者 :T.R.ピアソン 柴田元幸・訳 出版社:みすず書房 発行年:2003年 価格 :2800円 ノースキャロライナの架空の田舎町ニーリーを舞台に、貧しく教育もない民衆が繰り広げる群像劇といったところだろうか。一応ベントン・リンチが恋人との出会いにより強盗…

『パンク侍、斬られて候』

著者 :町田康 出版社:マガジンハウス 発行年:2004年 価格 :1600円 <あらすじ> 世界は巨大な条虫の胎内にあると信じ、そこから脱出すべく虚無的な乱行を繰り広げる教団「腹ふり党」。その対策者として超人的剣豪である浪人・掛十之進は黒和藩家老・内藤…

サトラップの息子

著者名:アンリ・トロワイヤ 出版社:草思社 発行年:2004年 価格 :1600円 <あらすじ> レフ・タラソフ少年は、ロシア革命により家族とともにフランスへ亡命する。その途上で友人となったニキータという年上の少年とフランスで再会したレフは、『サトラッ…

ダンボールボートで海岸

著者名:千頭ひなた 発行年:2004 出版社:集英社 価格 :1300円 <あらすじ> 主人公のアオイは、ただひとりの肉親である母親が男と蒸発したために、大学を休学しフリーターをしながら何とか生活している。そこへ自称アーティストの友人であるハナが転がり…

閉ざされた城の中で語る英吉利人

著者 :ピエール・モリオン 生田耕作・訳 発行年:2003年 出版社:中公文庫 価格 :533円 先日、栃木かどこかの男が小学生少女を殺して逮捕されたそうです。 まあ、その事件そのものは「かわいそうに」と無責任な感想を抱いて終わる程度のものなのですが、犯…

サラマンダー 無限の書

著者 :トマス・ウォートン 宇佐川晶子・訳 発行年:2003年 出版社:早川書房 価格 :2400円 <あらすじ> 18世紀末、四六時中変化しつづける機械仕掛けの城に住むスロヴァキアの伯爵オストロフは、無限に続く終わりのない本の製作をロンドンの印刷職人ニコ…

<癒し>のナショナリズム -草の根保守運動の実証研究

著者 :小熊英二・上野陽子 発行年:2003年 出版社:慶応義塾大学出版会 価格 :2400円 上野による「つくる会」系の民間団体に対する調査と、それについての小熊の解説からなる。基本的に上野の調査は「卒業論文」であるので、まあその程度のものです(笑 で…

聖母のいない国

著者 :小谷野敦 発行年:2002年 出版社:青土社 価格 :1900円 アメリカ小説を読み解く13の論考を収める評論集。 初出は『ユリイカ』誌上において2001年一年間にわたった連載。 『風とともに去りぬ』が大衆小説と見なされる理由から始まり、「赤毛のアン」…

サド侯爵の幻の手紙 至高存在に抗するサド

著者名:フィリップ・ソレルス 鈴木創士・訳 発行年:1999年 出版社:せりか書房 価格 :2000円 前半はソレルスによるサド論、後半はサドによる「架空の手紙」という構成をとる。 だが、前半のサド論は先行するサド論において描かれるサドのイメージの範囲に…

阿修羅ガール

著者名:舞城王太郎 発行年:2003年 出版社:新潮社 価格 :1400円 <あらすじ> 好きでもない男とホテルに行ったアイコは、顔射されかかってキレ、男を蹴り上げて家に帰る。翌日友人たちに理由も分からずシメられかかったアイコは逆にそのリーダー格の女を…

鱗姫

著者名:嶽本野ばら 発行年:2001年 出版社:小学館 価格 :1200円 <あらすじ> 美しい資産家の令嬢「龍烏楼子」は美に異様に執着するとともに醜形への恐怖に支配されていた。だが彼女には龍烏家の女子に遺伝する奇病「鱗病」という忌まわしい秘密があった…

蟹の横歩き ヴィルヘルム・グストロフ号事件

著者名:ギュンター・グラス 発行年:2003年 出版社:集英社 価格 :2100円 <あらすじ> ダヴォスでユダヤ人青年に暗殺されたナチスの地域指導者ヴィルヘルム・グストルフ。彼の名をつけられたkdf船団の豪華客船グストロフ号もまた、大戦末期に東プロシアか…

GOTH

著者 :乙一 出版社:角川書店 発行年:2002年7月 価格 :1500円 人間の暗黒面に興味を持つ主人公の少年と少女が殺人事件に関わるという連作短編集。 去年相当高い評価を受けた本という話だったのだが、うーん、イマイチ。ストーリーテリングの技は上手いと…

プラットフォーム

ミシェル・ウエルベック:著 中村佳子:訳 角川書店 2002年9月 P.360 1800円 <あらすじ>四十代の独身男である主人公は、文化省勤めとはいうものの会計管理が中心である仕事にも興味が持てず、取り立てて熱中するほどの趣味も無く、特定の恋人もいないた…

コレクター蒐集

ティボール・フィッシャー:著 野口百合子:訳 東京創元社 2003年4月発行 1500円 人格と変身能力を持つ「陶器」の視点から叙述された、女性鑑定家の真実の愛の探求の物語・・・って自分で骨子を書いててそれだけでイヤになってきた(苦笑 まあ、いいいや。。…

自殺サークル

著者 :園子温 出版社:河出書房新社 発行年:2002年 価格 :1000円 <あらすじ> 上野駅での女子高生54人の集団自殺。その少し前、愛知県の片田舎での退屈な日常から抜け出そうと家出した女子高生「さやか」はネット上で知り合った女性「クミコ」と出会いレ…

宮殿泥棒

イーサン・ケイニン:著 柴田元幸:訳 文春文庫 2003年3月 686円 307P 「会計士」「バートルシャーグとセレレム」「傷心の街」「宮殿泥棒」の四編からなる短編集。訳者によれば、いずれも枠から飛び出せない<優等生>の物語であるということだが、それは人…