GOTH

GOTH―リストカット事件
著者 :乙一
出版社:角川書店
発行年:2002年7月
価格 :1500円


人間の暗黒面に興味を持つ主人公の少年と少女が殺人事件に関わるという連作短編集。
去年相当高い評価を受けた本という話だったのだが、うーん、イマイチ。

ストーリーテリングの技は上手いと思うのだが、ミステリとしては一冊の中で同じトリックが複数回用いられているなど欠点が多い。連作短編のうちで大半が叙述トリックというのは問題があるのではないか?叙述トリックは半ば反則に近いものであり、連発すると効果が落ちるということが分かっていないのだろう。

更に、ことごとく<泣かせ>に向かうのが、どうしてもいただけない。その点では、一番面白いと思えたのは表題の「リストカット事件」という作品かな、これは泣かせの要素がなく切れ味が鋭いから。<人間的ではない犯罪者>と<人間的な普通の人>を対置させる意図なのだろうが、特に「土」という作品において被害者の恋人がとる行動には吐き気さえする。この手の<非人間的な犯罪者>を描く作品の書き手としてこの作者は不適当ではなかったのではないだろうか。

異常犯罪者を<そのように育った>ではなく<そのように生まれついた>というように描いている点は興味深い。「永遠の仔」以降、異常犯罪と幼少期のトラウマを結びつけるような小説(小説だけでなくテレビや言論も)が氾濫していただけに、そのような犯罪の理由のなさを描くのは希少である。(余談だが、どこかのバカ大臣が「勧善懲悪を教える必要」などと発言していたが、そうではない。善悪の二項対立を越えた彼岸にある恐るべきもの、そういう存在がいるということをこそ認識しなければならないのだ。)