2005-01-01から1年間の記事一覧

みんな元気。

著者:舞城王太郎 舞城王太郎の「みんな元気。」は、「何かを選ぶ」ということの暴力性をはっきりと描き出す。「何かを選ぶ」ということは「選ばれなかった可能性」を殺すということでもあるのだ。だが、舞城は「それでも何かを選ばないことには前に進めない…

『靖国問題』

著者:高橋哲哉 帯には「哲学で斬る「靖国」」とあるが、どこが「哲学」やねんw 手法としてはむしろ「言説史」的といえるのでは。 以下、本書のまとめに私の意見を付記する。 1・感情の問題 靖国のシステムの本質が、国家が国民の生と死に対し最終的な意味…

『私が語りはじめた彼は』

著者:三浦しをん 激しい感情は書物と同じだ。どれだけ厚くても、いつか終わりがやってくる。僕はもう、激しさをすべて使いきってしまったから、はじまりも終わりもなく続いていくだけなのだ。 (「冷血」より) 「結晶」「残骸」「予言」「水葬」「冷血」「…

「「カッコいい」のある風景─民俗学とその周辺にとっての’80年代─」

いまや「暴力でぶ」という二つ名で知られる大月隆寛であるが、かつては気鋭の民俗学者であった(という言い方は失礼ですね。今でも民俗学者です。「民俗学」なるものが今も存在しているのであれば)。そしてその同時期、大塚英志もまた民俗学的な用語をちりば…

『オウバアキル』

そして先人に倣って自らも「呪われた詩人」になることを夢見る。しかし、差し当たってリセに通う平々凡々たる生徒に過ぎない私は、呪いなどとは全く無縁で、常日頃、救いようのない自分の凡庸さを意識すると同時に、不満を漏らす権利は自分にはないのだとも…

『感じない男』

森岡正博 ちくま新書 2005年2月 「性犯罪を犯さないがロリコンの嗜好を持つ男」*1という今まで語られることの少なかった「ロリコンの中心層」を正面から描いた点で希有な一作である。今までの「ロリコン=性犯罪者」「=大人の女に相手されない男、大人…

『金毘羅』

笙野頼子 集英社 2004年10月 2000円 この小説の末尾には、作者によるこのような断り書きが記されている。 「この小説は異端、或いは反主流の学説を多く根拠にした空想の含まれる作品です。その他の研究所、論文の通りにはなっていませんのでご注意…

『<戦争責任>とは何か―清算されなかったドイツの過去』

4月14日、町村外務大臣は、参院外交防衛委員会で、韓国のノ・ムヒョン大統領が日本とドイツを比べて、日本の歴史認識を批判していることに対し「単純にドイツと比較というのはいかがなものか」と反論した。 外相は「ドイツはユダヤ民族を抹殺するという大…

『ねむり姫』

「ねむり姫」という澁澤龍彦の短篇がある。十四歳の姿のまま眠り続ける「珠名姫」は、盗賊となった腹違いの兄「つむじ丸」にさらわれ山中に捨てられる。その際、両手首を野犬に食い千切られた姫は、寺院に安置されるものの、やがて手に余るようになった僧侶…

『落窪物語』

『落窪物語』とは、通俗小説の偉大なる古典である。 小島政次郎が述べたように、下級の女房の欲望に応える「大衆小説」なのであり、その通俗性のパターンをより過剰な通俗性をもって裏切るところに『落窪物語』の小説としての巧みさはある。 はっきりいって…

『火の記憶 (1) 誕生』

著者名:エドゥアルド・ガレアーノ 飯島みどり・訳 出版社:みすず書房 発行年:2000年 先日は北朝鮮戦が大変盛り上がりましたね。 ということで、スタジアムの神と悪魔―サッカー外伝でもどうでしょうか?そして、その著者であるガレアーノが描くラテンアメ…

『あなたの人生の物語』

著者 :テッド・チャン 朝倉久志・訳 出版社:早川書房 発行年:2003 価格 :987円表題作を含む八編を納めた短編集。 多少難解で読みづらいところはあるものの、いづれもSF的な想像力に満ちた傑作である。 物語的なエンジンは弱く登場人物の魅力にも欠ける…