サラマンダー 無限の書

サラマンダー―無限の書
著者 :トマス・ウォートン  宇佐川晶子・訳
発行年:2003年
出版社:早川書房 
価格 :2400円


<あらすじ>
18世紀末、四六時中変化しつづける機械仕掛けの城に住むスロヴァキアの伯爵オストロフは、無限に続く終わりのない本の製作をロンドンの印刷職人ニコラス・フラッドに依頼する。フラッドは伯爵の娘イレーナと恋に落ちたが故に11年間牢に幽閉されるが、想像上の印刷機で想像上の本を作ることでその時間を耐えつつ、ついにはイレーナとの間に生まれていた娘パイカにより牢から解放され、そこから本編が始まり無限の本をめぐって世界中を旅することとなる。

筋自体はありふれたものであるが、そこに描かれた挿話や事物の数々は非常に魅力的である、いわば千夜一夜のごとき正統的な幻想小説・奇譚である。その奇想はあまりにも折り目正しく、「無限の本」の出典元であるボルヘスの正当なる後継ともいえよう(・・・ってのは言いすぎだけど 笑)

「鉱物だけから作られた庭園」「禁書を埋めるために掘られた物語の井戸」「入れ墨により記された自分では読むことの出来ない書物」「首だけを土から出して無駄話を続け、話が途切れた瞬間にジャッカルに食われてしまう部族」「終わりなき性行為を中断した勃起の神が一服しながら書いた世界最長の性愛小説」などと、列挙するだけでも魅力は伝わるであろう。主人公に同行するのも、記憶を失った六本指の美少年、黒人の女海賊、陶器製の自動人形など、いかにもツボを押さえた感じ。まあ、結局作り上げられた本は、アレなんですが(笑