<癒し>のナショナリズム -草の根保守運動の実証研究

“癒し”のナショナリズム―草の根保守運動の実証研究
著者 :小熊英二・上野陽子
発行年:2003年
出版社:慶応義塾大学出版会 
価格 :2400円


上野による「つくる会」系の民間団体に対する調査と、それについての小熊の解説からなる。基本的に上野の調査は「卒業論文」であるので、まあその程度のものです(笑 でも、この手の調査結果が一般の出版物として出されること自体は稀だと思うので、そこそこ意義はあるんでは。

おおまかに言うと、一般の「つくる会」シンパの人たちは「普通の市民」という自画像を持っていて、普通を自称しながらもその内容を明確に規定できず、否定的な他者である「サヨク」を「普通でないもの」として排除することで自分たちが普通であるというアイデンティティを保っているということ。そこでは「戦中派のリアリティ」や「天皇制」もまた排除されており、「反サヨク」という言葉・世界が同じことを前提することで結びついている心地よい共同体なのである。彼らは自分が普通であると立証してもらうことに飢え、話の通じる相手に飢え、そこでは話し合われる内容よりも話すという行為が重視されている。だから、周囲から排除の対象とならないように、その安心感を壊すような危険は回避されることとなる。

もっとも頷かされたのは、彼らにとっては常に「個か国家か」という二者択一になって、その中間にある地域の共同体や学校などが共同体のモデルとして想像されないという点。地域や学校は具体的なものとして知っているが故に幻滅し、国家は想像の共同体だから無制限な希望を託すことができるんだそうな。まあ、いまどき国家に何かを期待するなんざ奇特な人たちじゃあるわけだが(笑