鱗姫

鱗姫―uloco hime    
著者名:嶽本野ばら  
発行年:2001年
出版社:小学館
価格 :1200円


<あらすじ>
美しい資産家の令嬢「龍烏楼子」は美に異様に執着するとともに醜形への恐怖に支配されていた。だが彼女には龍烏家の女子に遺伝する奇病「鱗病」という忌まわしい秘密があった。ある日ストーカーに襲われたことをきっかけとして彼女の病は急激に進行する。同じく鱗病を病む叔母に付き添われ世間から隔絶した隔離病棟を訪れた彼女はそこで重症の鱗病患者の姿を目にする。ただひとつ鱗病の進行を遅らせる方法、それは・・・。

作者はこの作品の中で、差別と美が密接なものであり、二十世紀の平等主義が美意識を破壊したと盛んに主張する。差別とは特権的な存在を認めることであり、異質な存在(怪物)にも怪物としてのアイデンティティを保証することであるという。故に、美意識に忠実に生きようとしたら孤独になると言いながら、主人公は己の美意識に反する他者を徹底的に拒絶するという傲慢な態度をとり、彼女が受け入れるのは兄と叔母という美意識を共有する近親者つまりは自分自身の鏡像のみである。

このような主人公をグロテスクに感じる私はおそらく骨の髄まで近代主義者なのであろう。だが、果たして「怪物としてのアイデンティティ」なんてものを当の被差別者自身は求めるのだろうか? その実、彼女の思想というものは「自分だけが特権者である」ことを望むということでしかないのだ。
私は特権的な美という傲慢よりも万人の幸福という偽善を選択するだろう。
たとえ全ての美が死に絶えようとも、我らは退屈に耐えるしかないのだ。