宮殿泥棒

宮殿泥棒 (文春文庫)
イーサン・ケイニン:著  柴田元幸:訳
文春文庫 
2003年3月 
686円 307P


「会計士」「バートルシャーグとセレレム」「傷心の街」「宮殿泥棒」の四編からなる短編集。訳者によれば、いずれも枠から飛び出せない<優等生>の物語であるということだが、それは人生に対する<不器用さ>の物語と言い換えることもできるだろう。学は無くとも経済的に大成功した快活な男と謹厳さによってそこそこの成功を収めた会計士、型外れな天才の兄と小利口で協調性に富むものの凡人の弟、といった対比によって<凡人><脇役>側の方を描くところに面白さがある。それも、感傷が過度に溢れかえるのではなく、あくまでも押さえた筆致で(特に「会計士」においては顕著である。それがまた「そこそこに(もしくは常識的な範囲で)知的」であることの不幸に相応しい。)描かれているのがこの作品集の好ましいところである。
まあ、構図が明確すぎて「作りすぎ」と感じる向きもあるだろうけど(笑