第四の手

第四の手
ジョン・アーヴィング:著  小川高義:訳
新潮社 
2002年7月発行  
2200円  395P


<あらすじ>
女にだらしないB級ネタ専門のTVリポーター、パトリックは取材中にライオンから腕を食い千切られ、それがTVで流されることによって有名人になってしまう。やがて彼は死者の腕の移植手術を受けるが、その腕の元の持ち主であった男の妻、ドリスは「夫との子供」を欲して夫の腕を持つパトリックへ一度だけの性交を迫り息子を出産する。一方、パトリックもドリスへの報われぬ恋心と息子への父性の目覚めを通して、女へのだらしなさや欺瞞に満ちたテレビ業界から次第に変化していく。


自分自身をよく知らない大人になりきれない男が、本物の恋愛と父性の発見を通して成長する話、としてまとめてしまうと陳腐に過ぎるだろうか。だけれど、言ってみればその程度の話です。それをアーヴィング流のケレンとユーモアで味付けしたという感じでしょうか。細部に散りばめられた挿話や会話の面白さや、複線的な物語が一つに繋がっていくストーリーテリングの技には惹かれるが、物語自体はそんなもんです。
アメフト関係の挿話も結構出てくるけれど、その辺はほとんど分かりませんでした。特に人名などは。


ちなみに、パトリックのTV局のネタとしてあげられるバカ事件(犬に頭を撃ちぬかれたハンターやら、夏時間になったのに気付かず自爆してしまったテロリストなど)は、ほとんど実在のもの。結構知っているネタが多かったので、アーヴィングには手抜きしないようにと言いたい(笑


<参考>
ダーウィン賞!―究極におろかな人たちが人類を進化させる
ダーウィン賞!』
ウェンディー・ノースカット編
講談社 2001)

 <ダーウイン賞とは>
愚かな行為によって人間の遺伝子プールから自主的に身を引いたものを、人類という種の存続に貢献した立役者として、その自己犠牲の精神を称える

ここに集められているのは、自らの犯した馬鹿な行為によって命を落とした人々(パラシュートを付け忘れてスカイダイビングした人や、弾の入ったまま銃を掃除しようとして自分の頭を吹き飛ばした人など)であるが、それらの事例自体は馬鹿馬鹿しくはあるもののありふれたものであり、さほど興味を惹かれはしない。だが、それらを「ダーウィン賞」として表彰しようというブラックユーモアは非常に素晴らしい。編者が時折挟むコメントや賞の理念についての解説こそが、この本の読みどころである。
「自殺は人類に悪影響を及ぼす遺伝子を淘汰することだ」だとか「遺伝子にとっては自殺も子供を作らないことも同じことであり、その見地から言えば禁欲もまた愚行である」なんて、いかにも理科系的なセンスが好みです。