『少年時代』

少年時代 (Lettres)
著者 :J.M.クッツェー くぼたのぞみ訳
出版社:みすず書房
発行年:1999
価格 :2600円


 <あらすじ>
ケープタウンの豪邸で暮らしていた10歳の主人公は、父親が政権交代に伴って公務員の職を失ったため、ヴースターという田舎町の団地へ転居する。
英語を話し無宗教である家庭に育った主人公は、プロテスタントのオランダ系住民が大多数を占める学校において、彼らの粗暴さになじめず孤立した存在となるが、勉強においてトップを取りつづけることによって少なくとも教師の悪意からは身を守ろうとする。そして、家においては父親の凡俗さに強い反抗を示し、彼を庇護する母親に対しても守られていることで母の人生を奪っているようなやましさを感じ素直になることが出来ない。


南アフリカを代表する作家、クッツェーの自伝的小説(といってもまるきり自伝ではない)。身の置き場を知らぬ知的でわがままな少年が、父の失業やアル中、学校での諸問題、過保護な母との葛藤などと通して成長する話。
まあ、基本のストーリー自体はありがちなんだけれど、それは一貫したストーリーとしては示されず、様々な場面が断片的なものとして簡素な文体で描かれており、それを受け止める主人公の心理のユニークな屈折方向とあいまって小説としての上手さを感じさせる。とはいえ、クッツェーの作品としては不出来な方だと思われる。