『死ぬほどいい女』

死ぬほどいい女
著者 :ジム・トンプスン 三川基好・訳
出版社:扶桑社
発行年:2002年3月



 <あらすじ>
 訪問販売人フランク・ディロンは、代金を踏み倒した客についての聞き込みをしに寄った家で老婆に買春を強要されている少女モナに出会い心惹かれる。彼はモナを救い出すことを約束し、老婆の隠し持つ大金を盗むことを計画する。計画は一見成功したかに見えたが、すこしずつ綻び始め、同時にディロンの精神も次第に狂気へと向かっていく・・・


 他のトンプスン作品と比較しても、相当ぶっ壊れた小説。この壊れ方に比べれば、『ポップ1230』も普通の小説のように見える。ラストはまるでポストモダン小説でも読んでいるように虚実が交じり合う(もちろん誉め言葉)。まあ、現在の視点で見るとありふれた手法だけれど、これが書かれたのは1954年であることに注意。純文学におけるその手の小説と殆ど同時代的に書かれているわけ。
 ストーリーは、ほんと相変わらずのトンプスン節。頭のおかしい小悪党である主人公の意識の流れを丹念に描きながら、ストーリーはしけた犯罪が失敗に至るプロセスを描くだけ。主人公が延々と悩み愚痴る割には、読者には「全く悩んでいるようには見えない」のもトンプスン流。結局、彼は小悪党的な悩みを馬鹿にしているんだろうな。「バカが中途半端に頭を使っても、ろくな事にはならない」って具合に。(爆)

 そういや、これ書いてて思い出したけど、ポール・オースターの『ミスター・ヴァーティゴ』の後半部分もかなりトンプスン的なような気がする・・・。『ミスター・ヴァーティゴ』はオースターにしては駄作の部類なんだけれど。(彼は初期のニューヨーク3部作以上のものを書けてない気がする。彼の持ち味は物語的でないところなのに、最近は物語への回帰が目立つし、ページ数ばっかり増えているし。)まあ、余談ですが(笑)