素粒子

ミシェル・ウェルベック:著  野崎歓:訳
筑摩書房 
2001年9月発行


性欲に振り回されて常に満たされることのない兄と、性欲どころか殆どの欲望に無関心である孤独な天才科学者の弟。二人の人生を年代記風に辿りながら、教養小説的「進歩」と無縁な彼らの(そして20世紀消費社会の)不幸を描き出す。

ここで描かれる現代人の不幸の源は、刺激の拡張と欲望の自由化がもたらした「過度な競争」である。とりわけ、性的領域においての。つまり、形式上の自由主義ゆえの「もてる男」と「もてない男」の不均衡の問題ともいうことが出来る。消費社会は人々の欲望を煽りはするものの、その達成に関しては個人の能力として片付け、如何なる救いも用意しようとはしない。かつては救いとなりえた婚姻制度も宗教倫理も既に破壊されてしまった。そこで、孤独と渇望をもたらすセクシュアリティという厄介なものから人間が解放される方法をこの小説は模索するのである。そして、その鍵となるのは科学技術の発達・・・

評論家のあいだではこの作品のラストは評価が高いようだが、すべてを「歴史のかなた」に追いやってしまうこのラストはある意味反則なような気がする。いや、窮極な解決ではあるんだけど・・・問題を抱えている本人には全く救いになってないし、これじゃ人によっては「バカにすんな!金返せ!!」と本を投げ捨ててしまうかも。

そのような欠点はあっても、文句なしの傑作。とりわけ、私のような「もてない男」にとっては。逆に、恋愛(セックス)至上主義的価値観を疑うことなく享受している一部の若い人たちには全く理解不能な小説だろうけれど。まあ、そんな人間がこの小説を読むことはまれだろうが(苦笑